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こんな夢を見た vol.2|マルヤマ レイ

by ツカノマレーベル

第2回 short short story「こんな夢を見た。」受賞作品より

▪ 募集期間 2019/9/9 〜 11/9

▪ 応募総数 314作品

▪ 一次選考通過 108作品

▪ 二次選考通過 30作品

▪ 最終選出作品 10作品

その他の受賞作品はこちら

「こんな夢を見た。」

 声が聞こえて目を開くと、斜め前の瀬尾さんが教科書を朗読していた。

 グラウンドから微かに聞こえる体操のカウントをBGMにして、瀬尾さんはすらすらと教科書を読んでいく。

 教室には、五限目特有のまどろんだ空気が充満していた。いつもは騒がしい運動部の連中は、おでこと机を完全にくっつけて、寝息を立てていた。あのまじめな小田君でさえペンを握ったまま頭を垂れていた。

 そういう僕も、今の今まで意識を手放していたようで、黒板を写していたはずのノートには、無数のダイイングメッセージが散らばっていた。書き直そうと消しゴムをノートに押し当てて、やめた。

 今日くらいは、ノートを必死にとらなくてもいいように思えたからだ。

 僕はノートを閉じ、瀬尾さんの声に合わせて、教科書の文字を追うことに専念した。

 瀬尾さんの声をちゃんと聞くのは初めてだった。

 その声は、まるで僕だけに語り掛けるように、すぐ耳元で響いていた。

「あなた、待っていられますか」

 気づくと、また目をつぶっていた。これではいけない、と思い、やはり板書を再開することにした。もう一度ノートを開き、黒板の方に目を向ける。

 すると黒板の前で、先生が腕を組み、口を大きく開いたまま眠りこけているのが見えた。思わず吹き出しそうになったが、なんとかこらえた。先生が居眠りするなんて聞いたことがない。あまりのことに、僕は誰かに目配せをしたくなって教室を見渡した。

 しかし、誰とも目は合わなかった。

 教室には、もう誰もいなかった。

 運動部の連中も、真面目な小田君も、先生さえも、みんな初めからいなかったかのように消えていた。

 それどころか椅子も机も、教室さえもなくなっていた。

 再び瀬尾さんの声が聞こえてきた。

 何も変わらない、ゆったりとした声はどこかで聞いたことがある気がした。

 僕は、瀬尾さん、と声をかける。

 すると彼女はやっと読むのをやめ、黒い髪を揺らして振り返った。

 百合の香りがした。

 僕は、やっと目を覚ました。

マルヤマ レイ

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