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こんな夢を見た vol.2|あんのくるみ

by ツカノマレーベル

第2回 short short story「こんな夢を見た。」受賞作品より

▪ 募集期間 2019/9/9 〜 11/9

▪ 応募総数 314作品

▪ 一次選考通過 108作品

▪ 二次選考通過 30作品

▪ 最終選出作品 10作品

その他の受賞作品はこちら

 こんな夢を見た。

 知らない人の誕生日会にいるの。

 テーブルには大きなバースデーケーキとたくさんのごちそう。

 でも、私は誰も知らない。

 私は隣りの席の男の子に聞いてみた。

「これは誰の誕生日なの?」

「知らないよ」

「知らないのに祝っているの?」

「そうだよ、おかしいかい?」

「おかしいわ。どうしてそんなことをするの?」

「だって今日は特別な日だよ」

「どんな日なの?」

「地球最後の日さ」

 男の子はそう言うと、部屋を出ていってしまった。

 私は彼を追いかける。

 廊下の途中で、近所のエマがアイスクリームを食べていた。

「エマ、何をしているの?」

「アイスクリームを食べているのよ」

「また、むし歯になるわよ」

「気にしないわ、だって今日は地球最後の日よ」

 エマがアイスクリームを全部食べてしまうと、庭の方から歌声がした。

 行ってみるとエマの叔父さんが大きな声で歌っていた。

「ねぇエマの叔父さん、歌は苦手じゃなかったの?」

「苦手だよ。でも嫌いじゃないさ」

「苦手なら、恥ずかしくないの?」

「気にならないね、だって今日は地球最後の日だもの」

 私はエマの叔父さんの歌をしばらく聞いた。

 すると、大通りを走るランナーを見つけた。

 私はランナーを追いかけて聞いてみた。

「ねぇ、どうして走っているの?」

「これは日課さ。毎日走っているよ」

「今日は地球最後の日よ。もっと特別なことをしないの?」

「特別なことって、どんなことだい?」

「そうね、今まで禁止していたお菓子を食べるとか、恥ずかしくてできなかった遊びをするとか」

「それじゃあ僕にとって、走ることこそ特別だね。地球最後の日に、こんなにも走りたいのだから」

 ランナーはグンッと走る速度を上げた。

 いつの間にか、私はまた誕生日会の家の前にいた。

 最初に話した男の子が、扉から出てくると言った。

「やぁ、君は見つけたかい?」

「見つけたって、何を?」

「地球最後の日にすることさ」

 次の瞬間、男の子も家もエマの叔父さんの歌声も、みんな霧のように消えて無くなってしまった。

 目覚めると私はいつものベッドの上だった。

サイドテーブルに置いたグラスの水を飲み干す。

そして、階段を降り一階のキッチンへグラスを戻しに行った。

テーブルにママが用意してくれたシリアルがあったけれど、今日はいらない。シリアルって気分じゃないの。

私はサラのクローゼットからブルーのセーターを出して袖を通した。

まだ少し大きいけれど、とっても私に似合っている。

お気に入りの茶色いブーツを履き、家を出る。

コートのポケットに手を入れると、いつかのコインが指先に触れた。

サムの店でコーンブレッドを買おう。

いくらか知らないけれど、コインが足りなければ買わないだけ。

私の名前はメアリー。空を見る。真っ青な空。

サラのセーターよりずっと青い。

飛行機がこっちに向かって低空飛行していた。

きっとうるさいから耳を塞ぐ。

髪の毛がぐっしゃっとなって、きっと変な姿ね。

でも気にしない。誰がそれを見て笑ったっていいわ。

特別な日に、気にするもんですか。

私はわたし。

今日が地球最後の日かもしれないし、そうじゃないかもしれない。

でも誰かにとって、今日は地球最後の日なの。

どこかで地球最後の日を迎える人が必ずいる。

毎日、新しい命が生まれるようにね。

だから私は知らない人の誕生日だって祝いたい。

私は耳から手を離す。

飛行機の音は止んでいて、遠くからバースデーソングが聞こえた。

あんのくるみ

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