LOG IN

朗読企画「こんな夢を見た。」2019 short short story 受賞作品

by ツカノマレーベル

夏目漱石『夢十夜』より

朗読企画「こんな夢を見た。」2019

short short story

「こんな夢を見た。」2019 受賞作品

第1回 short short story「こんな夢を見た。」公募企画は、2019年3月7日に作品の募集を開始し、同年4月20日に締め切りました。

応募総数665篇より、下記10篇を選出。(応募受付順に掲載)

2019年5月11日(土) 神保町ブックセンターにて、受賞作品の朗読公演を開催いたします。

朗読公演の詳細はこちらよりご確認ください。

 こんな夢を見た。

 修学旅行でずっと遠い所にある不思議な町にいた。いびつな形の石畳、町の夜空を覆うオレンジ色の明かり、どこか懐かしいながらも異国のような雰囲気があり、すっかり僕らは心躍らせながら宿へと向かったのだ。

 ところが、その宿は町の華やかさとは打って変わって、おんぼろの廃屋であった。それはそれはひどいもので、床や天井が朽ちて穴が空いているほどだった。

 なんということだ、しかし探検するには楽しかろう。僕らはそう思って階段を上り、この宿を楽しむこととした。

 おそらくかつては学校だったのだろう。教壇と机があり、小さなグランドピアノが傾いていた。住んでいる人を驚かせようと鍵盤を叩きつけてもスカッと空虚な音がするだけですっかり拍子抜けした。

 さて、僕は割れている床の中に、透明な箱があるのを見つけた。教室の外から「おーい」と呼ぶ声が聞こえるが、僕は「先行ってて。」と答えて箱を拾い上げた。

 それは小釘(こくぎ)の入った箱であった。人差し指の爪ぐらいしかない大きさの釘。僕はその一本を取り出し、どういうわけかそれを口の中に入れた。

 ぱり、ぽりぽり、ぱり。

 別に美味しくもない。何も味もしない。一本食べ終わると、僕はまた小釘をもう一本口の中に入れた。

 ぱり、ぽりぽり、ぱり。

 僕は小釘を次々と食べ続けながら、ふと、どうしようと思った。こんなに釘を食べてしまったら喉や食道、胃に至るまでに大怪我をしてしまうのではないか。本当に、本当に、本当に怖くなった。なのになぜだか、怖いと思えば思うほど釘を口に運ぶ手が止まらない。

 ぱり、ぽりぽり、ぱり、ぽりぽり、ぱり。

 教室の扉が開く音が聞こえた。喧しい女子たちの笑い声。僕ははっと気がついた。その中に、あの僕の想い人がいる。あの子に、僕が釘を食べてるなんてことが知られてはおしまいだ。きっと嫌われる。僕はとっさに教壇の裏に隠れようとした。

「ねえ。」あの子の声。「きみでしょ。そこにいるんでしょ。何してるの。」

 大変だ。僕はあの子に背中を向けながら小釘をばりぼりばりぼりと食べながら答える。

「べ、別に・・・」僕はとっさに言葉が思いつかなかった。「その、見てるだけ。」

「何を・・・?」

「クモの行列。」

「うへぇ。」

 あの子と友達は気持ち悪そうな悲鳴をあげながら教室を去ってしまった。これでいい。結局気味悪がられた事には変わりがないが、釘を食べたのがばれるのに比べたらマシなものだ。

 僕は再び独りとなった。小釘も過ぎればやがては飽きる。何かもっといいものが無いかと、あたりをゆっくり探し始める。

 見つけたぞ。長い五寸釘。割れた床からこぼれ落ちている。

 僕はそれをゆっくりと拾い上げて舌なめずりし、それをゆっくりと口に入れていく。

石川潤

こんな夢をみた。

蜂蜜をしこたま入れて、ミントも浮かべたオレンジペコを、六階のテラス席で味わっていた私の体は、むくむくとふくれあがり、まんまるになった頃、ソーダ水の泡みたくパチン、とはじけた。

そうしてはじけた私は、六ツ目のクジラに変身していて、飛行船よろしく空を泳ぐ夢。

青空と銀河をない交ぜにした空には、さらさらとぶよぶよの雲が浮いていて、腹ぺこの私はそれらを飲み込みながら、尾びれふりふり前進する。

眼下には、先ほど紅茶をいただいていた店のある、色鮮やかに寂れたアーケード街。そこを行き交う、人、人、人。

私の六つの目に見えるのは、例えば。

手にしたラッパ水仙に向かって声を荒げるどこぞの国の兵隊さん。

厚化粧で時代遅れのシャンソン歌手。

募金を呼びかける子ども達の声をBGMに、ラブ&ピースを歌っているギタリスト。

麦わら帽子をかぶったサラリーマン。

学ランを着た女学生と、タータンチェックのスカートを着た男子学生のカップル。

赤、青、緑の肌をした三人組のチンドン屋。

彼らは私に気づくなり、驚いたり逃げたり、はしゃいだり。

思い思いの反応をする人間達が面白く、どれ、一つサービスでも、と一際おおきく口をあけ、太陽と月の子どもを一飲みすれば歓声とも悲鳴ともつかぬ声が上がる。

ーあぁ、絶景かな絶景かな。

満腹になった腹を抱えて、クジラの私は大笑いしたのだった。

木倉ゆう

 こんな夢をみた。

 電車に乗っている。

たたんととん たたんととん

車内に人影はまばらで、座席に座った私は、すぐに舟を漕ぎだした。

どれくらい微睡だろうか。ボソボソという声が聞こえてきた。目を開けるのは億劫で、薄っすらと浮き上がってきた意識をなんとか押さえ込みもう一度眠りにつこうと試みる。だが、声は低いながらも波長が合うのか、私の耳に侵入してくる。

「あけがたのあがたのわたのなかに……」

「はすかいのあらなわのうらがわを……」

「こどものぶんはおどうにすえて……」

「じゃりじゃりじやりのまりのまもりの…」

たたんととん たたんととん

 どうやら、ふたりの男が話し合っているようだ。なんのことなのか、よく聞こえない。どんなやつなのか、気にはなるが眠気が目の蝶番を握って離さない。

「やはらかなあかなやま。いにはまうさからうまい……」

「かけやのけさはいくさのうさを……」

「あらぬほうにまわらぬもうりはもう…」

たたんととん たたんととん

 声はすぐ近くにあるようで、遠くから聞こえるようでもある。座席の隣がわずかに沈んでいるので、誰か座っているようではある。

「かめくらにのこるゆめくらいのめくらめくようす……」

「いきちがいのかきちがえたきちははきちがいてはおらぬ……」

たたんととん たたんととん

どうしても気になり、私はうっすらと目を開ける。向かいの窓、闇濃い中には腕組みをした私が映っている。私だけが映っている。ふと気づくと電車は止まっており扉が空いている。開け放された扉から冷たい空気が流れてきて、ぶるっと体が震える。

不意の気配に、窓の外を見る。薄暗いホーム。駅名の看板の根元にふたつ、闇が小さく凝り固まっている。ははぁ、会話の主はこいつらだったのかと合点する。郊外とはいえ、都会にまだ現れる場所があるんだなと思う。電車に乗っているうちに、姿を見ておけばよかったな。

そのうち電車の扉は閉まり、次の駅へと走り出す。そういえば、私の降りる駅はどこだったか。眠っているうちに乗り過ごしてしまったようだ。そうこうしていると、また微睡みが私を包み込み、電車は走ってゆく。

たたんととん たたんととん

進十九

こんな夢を見た。という書き出しで文章を書かねばならない。わたしはどんな夢を見たのだろう。捏造はあまりしたくない。思い出すのは小学生の頃。漢字ドリルのこと。そしてノートに書かされた漢字練習のこと。新しく漢字を習う度に、まずはその漢字単体を十回ほど書かされる。次に、その漢字の含まれる代表的な熟語などを五回ほど書かされる。最後に、そこで覚えた言葉を使って、二十字ほどの作文を書かされる。例えば「新聞」という言葉を習ったとする。わたしは作文する。新聞を読んだ。句点も含めてこれで七文字。テーブルにある新聞を読んだ。これで十四文字。まだ足りない。最低でも十五字は超えたい。答案は五マス以上あけるなと教わった。そこで僕はこうする。テーブルにある新聞を読む夢を見た。これで十七文字。完了。お母さんに宿題を見てもらう夢を見た。スーパーに買い物に行く夢を見た。お父さんと映画館に行く夢を見た。友達とドッジボールする夢を見た。ノートの中では、わたしはあらゆる日常を夢見ていた。漢字を覚えるごとに、夢をまたひとつ見ていた。ズルは更に加速する。途中でわたしは夢の入れ子構造を発明する。「新聞」という語を使わなければいけないのなら、用意する作文は「新聞を読む」だけでいい。十五文字以上、二十文字以内におさめるため、次のようにする。新聞を読む夢を見る夢を見る夢を見た。これで十八文字。どんな文章も、述語をひとつ用意すれば済む。宿題をする夢を見る夢を見る夢を見た。買い物に行く夢を見る夢を見る夢を見た。映画館に行く夢を見る夢を見る夢を見た。漢字を覚えるごとに、わたしはまたひとつ複雑な夢を見ていた。今、夢についてものを書こうとパソコンに向き合い、小学生の頃を思い出す、夢を見る夢を見る夢を見た。

北堅太

こんな夢を見た。

いつか絵本で見た、小さな家とその横に流れる綺麗な川。

どこからともなく、のどかなナレーションが聞こえてくる。

「むかーしむかし、あるところに……」

「パイナップルが流れてきました!!!」

突然現れるサンバの集団!

アップテンポな謎のビート!!

飛び起きた。

先生と、目が合った。

いしころ

 こんな夢を見た。

 生まれた時から住んでいる町に巨大な怪獣が現れて、町の人は逃げ惑うのだ。5歳のわたしは、もう走れなくて、ひとりで薄暗い病院の待合室の椅子の下に隠れた。町の人たちはもうとっくに町の外に逃げて行ってしまったのか、靴の音や叫ぶ声は聞こえなくて、いつも明るくて、優しい看護師さんが迎えてくれる病院は暗くて寂しい。

 怪獣は火を吹かない。足音はどんどん大きくなるけれど、それ以外の音は聞こえない。何をしに来たんだろう。どこから出てきたんだろう。わからないけど、こわい。こわい。こわい。今までで一番大きな足音が聞こえて椅子の下から外を見ると、大きな足が見えて、目が覚めた。

 心臓がドキドキして、まだ近くに怪獣がいるような気がして、布団から急いで出たら、日曜日の朝のリビングには家族全員が揃っていた。夢だとわかっていても、それでやっと安心ができた。

 25歳の私の一番古い夢の記憶がこれだった。25歳を過ぎた人が、心臓がドキドキするほどこわいものってあるんだろうか。怪獣はこの世にはいないことを知ったし、お化けも妖怪もいないみたいだ。登るのがこわかった公園の大きなジャングルジムも、今はてっぺんに手が届いてしまって、こわいどころかかわいく思えてしまう。

 あのときのわたしが見ていた町は、少しだけ建物が増えて、少しだけ綺麗な道路が増えて、少しだけ川や田畑に蓋がされて、今の私が見ている。怪獣が壊しちゃったから、町の人が綺麗に作り直したのかもしれないね、と冗談交じりに心の中でつぶやく。今あるボロボロのジャングルジムは、私が35歳になるころにはもうないかもしれない。今思っている、仕事がうまくいかなくて悲しいとか上司に叱られて悔しいとか、そんな感情も、私が45歳になるころにはもう感じていないかもしれない。それは、薄暗い病院の椅子の下でひとりぼっちでいるくらい寂しいことなのだろうか。

 怪獣は火を吹かなかった。今あるものを一瞬で燃やして消してしまうんじゃなくて、少しずつ踏み壊していく。そして彼が通った道のがれきの山は、町の人たちが前の姿よりも綺麗に作り直す。新しい建物を作る。寂しいけれど、少し嬉しいことだ、と今の私は思う。明日の私がどう考えるのかはわからない。10年後の私がどう考えるのかもわからない。けれど、怪獣と共存するのも悪くないのかもな、なんてうとうとと考えながら、また次の夢を見るのだ。

Yuna

 こんな夢を見た――と、忘れないうちノートに書きとめたつもりだったのだが、朝、その文字は激しくのたうっていたため、とても読めたものではなかった。

 翌日、枕元にパソコンを用意した。かなり奇抜な夢をみた。目が醒めてすぐに打ち込んでいく。ところが、翌日、打ちこんだはずの文章がすべて文字化けしてしまった。

 今度は録音機を買ってきた。深夜、起き様すぐに録音する。そして――

 ついにやった!それは奇妙な夢だった。さっそく妻に聞かせてやる。すると、たちまち青ざめてゆく妻……。

「そこまで驚くかな? これはつまり――」

 説明すると、ますます怯えた様子で、妻が言った。

「どうしたの? いったい何をしゃべってるの? あなた……」

 聞いているうち、だんだん妻の言葉が理解できないものになっていった。

吉田静池

 こんな夢を見た。笑わないで聞いておくれよ。

 羊が話しかけて来たんだ。二足歩行の羊だ。「すみません、ヴァイオリン教室はどちらですか。」ってね。さぞ申し訳なさそうに聞くもんだから、きっと悪い羊じゃないんだろうと思ってね、親切心で言ってやったのさ。「ヴァイオリン教室ならそこの角を曲がったところだけれど、羊さん、あなたのその蹄ではヴァイオリンは到底弾けないんじゃないかい。」ってね。そしたら羊ってば、怒って空へ帰っちまった。そこまで羊の癇に障るようなことだとは思わなかったんだ。そう責めてくれるなよ。

 そうこうして道を歩いていると、次に傘が話しかけて来た。「すみません、この辺りに綺麗な娘さんのいる家があるはずなんですが。」ってね。このあたりのことには全く詳しくないからさ、「申し訳ないけどお力にはなれない」と断ったんだけどね、その傘があまりにも困った風だったから、一緒にその家を探すことにしたんだ。決して綺麗な娘さんにつられたわけではないよ。どんどんと傘に連れだって道を歩いていく途中、何人かの娘さんとすれ違ったけれど、どの娘も違うなあと私は分かってしまうわけさ。

 腕に巻き付いた夕顔が花を開くころになってようやく傘は一軒の家の前で立ち止まった。立ち止まって、チャイムを鳴らしてくれと言う。なんだい、自分で鳴らしなさいよと促したけれどどうも恥ずかしいらしい。開いていた傘を閉じちまった。

 仕方なく戸にかかっている糸を引くと、リンゴンと大層な音がするもんで。「ごめんください、傘ですが」私が名乗っても仕方ないから傘の代わりに言ってやったのさ。すると中から出てきたのはあの羊じゃないか。どうにも気まずくってその横長の目から視線をそらすと、傘がすいーっとその羊に寄って行ってな、「娘さんを探しているそうだ」と言うわけだ。おいおい、娘さんを探していたのは傘の方だろう、と言おうとしたんだが、どうにも自分の方だったような気がしてくる。「先ほどは大変失礼いたしました、娘さんはどこでしょう」なんて、口をついて出てきたよ。羊は一瞬渋った顔をした後に、メェと廊下の奥の方を向いて鳴いたんだ。すると、奥の茂みから一人の娘が出てきた。そら綺麗だったよ。綺麗だと思って手を取った。その手が蹄じゃないことを確認してね。そしたら目が覚めたんだ。

 その娘がお前だったというわけさ。なんだい、泣くなよ。笑うなとは言ったけれど、泣いて欲しかったわけでもないんだ。ごめんな、ただいま。

わかこ

 こんな夢を見た。

 買ったばかりの飛行機で旅にでると、さすがは最新型とあって、揺れはなく、ベッドルームも広いので、夜間飛行にはうってつけであり、飛び続けるのも容易であった。おまけにスピードも速いので、夜へ向かえば、ずっと夜である。

 これならば、思い通りの夢を見続けられる。

 燃料はどうしよう、夢の燃料には何を使うのか。

草枕

こんな夢をみた。

僕はただ仰向けに寝転んで、

地球と宇宙のすき間に挟まり、体がゆっくりと轢き潰される夢だ。

なぜこんなことになったのか、見当もつかない。

そもそもスケールも科学もどこにもない。

そんな考えはおかまいなしに、ただゆっくりと。

地球の自転に合わせ、僕の体は足先から徐々に引き潰されていく。

熱いような、痺れるような痛みを感じながら。

このまま24時間かけて、僕はぺたんこにされていくのだろうか。

その前に意識が途絶えるのはいつになるのか。

足が全部潰される午前9時頃。

胸まで潰される午後8時頃。

頭のてっぺんまで潰される深夜0時。

暗い宇宙に浮かぶ太陽を見ながらそんなことを考える。

もう早く終わってくれないかなと思っても、

挟まった異物である僕を排する訳でもなく、

地球も宇宙もそれぞれの役割をこなす歯車のよう黙々と動いていく。

宇宙はとても静かだけど、こうも暑いものかと考えていると目が覚めた。

いつもの六畳間、布団の中。僕はたくさんの汗をかいていた。

風邪でもひいたのか、頭も重く、喉も渇く。

なんとか起き上がってキッチンまで行き、冷蔵庫に入っている麦茶を飲む。

さっき見た夢で、僕はどこまで轢き潰されていたっけかな。

そんなことを考えながらも、

いつも通りの今日1日が始まったことに、目を逸らせずにいた。

そして今も僕は、宇宙と地球の間に挟まって生きている。

なるべく轢き潰されることのないように、頭の上を注意しながら。

カゲヤマ

OTHER SNAPS